飼い猫と、番犬。【完結】
周りを見てもその緊迫感のなさに笑っているのは近藤さん達だけで、あとはどこか反応に困っているような人間ばかりだった。
……まぁ左之さんも遊んでる訳じゃなさそうですけど。
左之さんは元々槍を得意とする。そんな彼と互角にやりあえる相手となれば、棒使いにしろ槍使いにしろ、その類いの扱いには慣れているということで。
ふぅん。
つい頬が緩む。
久しぶりの面白い手合わせ、これを楽しまない手はない。
極力邪魔をしないようにと廊下の隅に寄ると、壁に凭れて二人を見やることにした。
素早く無駄のない動きはかなりの手練れに見える。
笑顔でやり合う二人は心底楽しそうで、その二人が奏でる音を聞いているうちに心が湧いたのは、きっと私だけではない筈だ。
やはり強者同士の戦いは見ているだけで楽しいもの。
私達のような強さを追い求める者にとってそれは最早本能のようなものだから。
うずうずする感情に口角を上げつつ男を見つめる。
その全てを見逃さないよう、じっと。
すると、ふと一瞬、男が私の方を向いたような気がした。
「ほな、そろそろ仕舞いにしよかー兄ちゃん」
……は?
「……は?」
私の心の声と、後ろから首にピタリと棒があてがわれた左之さんが出した間抜けな声が重なる。
……何でしょう、今の。
それはほんの一瞬。
棒を支えに左之さんの頭上をふわりと飛び越えた男は、まるで烏(カラス)のようで。
恐ろしく身軽で意外なその行動には流石に誰もが閉口した。
「これで構いまへんか?」
なのに呆気にとられた周りの空気を諸ともせず、男は飄々とした様子で近藤さん達に微笑みかける。
「あ、ああ! なぁ歳!」
「ああ、原田に勝てりゃ十分だ」
余程気に入ったのか、ニヤリと口角をあげる土方さんはいつになく愉しそうだ。
まぁあの人も出鱈目な戦いしますもんね……砂かけたり石投げたり。この前も真っ直ぐに足狙ってたし……。
同類の親近感でしょうか。
「お前、名は?」
「山崎烝です」