飼い猫と、番犬。【完結】
「…………、はっ?」
思わず声が出た。
まさか夫婦(メオト)になることを約束していた程の仲だとは思っていなかったから。
「良い反応じゃねぇか」
そんな俺を見て、副長は燃えきった煙草の灰をコンコンと落としながら笑う。
その表情は、今聞いた二人の仲を疑ってしまいそうな程に余裕だ。
「振らはったんですか?」
「いや? 振られた」
単刀直入な質問に返ってきた答えもまた、俺の予想と異なるどころか正反対で、益々よくわからない。
……振られたにしちゃまたえらい余裕綽々過ぎひんか。女の体面保っとるだけか?ええ男やなおい。それともなんや、京であれよりええ女見つけたんか? たまに遊んではりますもんなぁー。
隊士には厳しい副長も、一歩屯所を出れば途端に評価が変わる。
組の顔として振る舞う様子は、決してにこやかとは言えないものの落ち着いていて凛とした迫力があり、意外と受けが良い。
特に女からはその整った見目もあり熱い視線が注がれることもしばしば。色街に至っては涼やかな美丈夫だともっぱら人気を集めている。
……まぁその辺はとりあえずおいといてや。
一つを掘り下げるよりもまずは全体像。気になることはまだあった。こうなれば遠慮はしない。
「他の人らも知ってはるんですね?」
「ああ」
ならば藤堂くんの態度も頷ける。
あれは付き合いの深い人間の許嫁であった女にそう易々と手を出せるようなタマじゃない。
「なんでまた?」