飼い猫と、番犬。【完結】

もうとっくの昔に捨てた過去だ。


最近まで思い出すこともなかったそれが久々に疼いた俺もまだまだだと密かに自嘲した。



「……互いに一等に想うものが違ったんだ、仕方ねぇこった」


片口だけをあげて笑う副長ではあるが、その目は珍しく穏やかで優しくて──ほんの少し、淋しげだ。


きっと、この人は待っていて欲しかったのだろう。


あいつは、共にありたかった。


どちらも勝手で、独りよがりな想い。


……でも。


そんな二人が少しだけ、羨ましい。





「阿呆、ですね」


俺が。


「るせぇ、聞いたのはお前だろ。……まぁ、だからだろうな、皆遠慮すんだよ」


くだらない過去を思い出した自分への言葉は、そのまま二人への言葉になった。


そんなことを知る由もない副長は、微かに眉を潜めて再び近くの煙草盆へと手を伸ばす。


感情の細波が内に広がってゆくのを感じながら、じっとそれを見つめた。



「俺にそんなん言うて良かったんですか?」

「……お前が知りたそうにしてっからだろ。どうせそのうち誰かしらから伝わることだしな」


それも、嘘ではないのだろう。
だがそれだけでもない筈。


この人の側に付いて暫く経つが特段情に薄い訳じゃない。


冷静沈着で周りを見渡す眼もある。時として鬼ともなれるのは此処を大切に思っているからこそ。


決して皆が言うように心がない訳ではないのだ。



「俺は、遠慮しまへんで」
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