飼い猫と、番犬。【完結】


こん人はまだあれを好いとる。


ただの勘だが間違ってはない筈だ。


どれだけ押し殺し、見ないフリをしたって、自然と湧き上がる感情までは操ることなど出来ないのが人なのだから。


だが──



「言うても元やろ? 俺はんな過去のこととか知ったこっちゃないさかい」


今更俺のんやけど?、みたいな顔したかてあかん。


「自分らはもう恋仲でもなんでもない、いつまでもだらだらしとっても互いに不幸なだけやろ」


島原でたまに女買うよな捻た優しさはあれを傷付けとるだけや。


阿呆ちゃう。
自分らどんなけ不器用やねん。


「あれの手ぇ取る勇気もないんやったら口出す資格もあらへんで」




どうしてだろう、苛々、した。


知りたかった筈の過去なのに。
知りたかった筈のこの人の想いなのに。


すれ違いながらも想い合う二人はとても滑稽だと思う、のに。


理解する度、懐かしい女の顔がふと脳裏にちらついて、どうしようもなく心がざわついた。



……阿呆らし。こない気張ったかてしゃーないのに。


沈黙が通り過ぎると、少しの後悔と共に冷静な頭が返って来る。


柄にもなく真面目に語った自分がちゃんちゃら可笑しい。



うん、こいつらがあかんねん。二人して阿呆やさかいつい必死こいて邪魔したなんねんっ。
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