飼い猫と、番犬。【完結】

そう、言い訳して細く息を吐く。


一度逸らした視線は何となく土方副長に戻すのも戸惑われて、動かした目はその手に持たれたままの煙管で止まった。



「……くっ」


喉の奥で小さく笑ったのは勿論副長で。


つられるようにして上げた視線の先では、その人が声を圧し殺しながらも愉しそうに笑っている。


自分でもらしくないと思っていたからこそのそれは、中々に恥ずかしい。


「……笑い過ぎちゃいます」

「や、すまん、悪ぃ」


嫌味なくからりと笑う副長に、不快な気持ちは然程湧かない。


同じ男の目から見ても、やはり良い男だと思う。



「……言うじゃねぇか」


漸く笑いが収まったところで煙草に火をつけた副長が、ふぅっと白い煙を吐き、意味深長に口角を上げた。


「んなこたわぁってるんだよ馬鹿」


細められた目はどこか遠くを見つめている。


恐らく、上京するまでに色々とあった筈だ。それでいての今なのだから、それなりに整理はつけてあるのだろう。


勿論、我知らずに湧く感情は別として。


「……あれの手を汚したのは俺だからな」


自らの組織の為に惚れた女が血に濡れる。考えただけで後味が悪そうだ。


独り言のように呟いた副長は数瞬、何かを考えるように黙って煙管を揺らしたあと、ゆっくりとそれをくわえた。
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