飼い猫と、番犬。【完結】
「あれは結構なじゃじゃ馬だ、一筋縄じゃいかねぇぞ?」
脇息(キョウソク・肘置き)に凭れ、煙管片手ににやりと意地悪く微笑まれると、流石の迫力がある。
ちゅうか無駄にやらしいな自分。
鍛え上げられた逞しい体、役者のような整った顔立ち。群がる女共は数多といるだろうに何故アレなのかと少々疑問も湧くが……。
「まぁ暴れ馬手懐ける方がおもろいし?」
「確かにあいつも昔はよく竹刀振り回してきてたな」
ああ、そっちの趣味がちょい可笑しいねんな、了解や。
懐かしむように顎を擦る副長に即座に納得した。
とは言え何となく妙な親近感も覚える。
「ま、精々頑張んな。万一あいつが落ちたら認めてやるよ。それまで妙なことすんじゃねぇぞ?」
けれども次に向けられたのは、余裕のようでいて結構本気な鋭いその目。
まるで父親だと密かに突っ込み、俺もまた口許だけで笑ってみせた。
「確約はでけへんけどなるべく善処はします」
「……おい」
「俺も仕事あるさかい、そろそろお暇(イトマ)させてもらいますわ。ほな失礼します」
遠慮はせぇへん言うたしな。
一段と鋭利になった視線をかわし、素早く障子を滑らせる。
追ってくる気配も声もないのは了解の意とする。
それを確認すると、俺は直ぐ様屋根へと上がった。
頬を掠める風が冷たくて心地良い。
今交わしたばかりの会話を思い出し、改めて可笑しな宣言をしたものだと一人苦笑いした。
……別に、遊んどるだけやし。