飼い猫と、番犬。【完結】
犬も朋輩猫も朋輩
吹き付ける風はまだまだ冷たく、袷に羽織を重ねても吐く息は空気を白く染める。
それでも町を歩けばぽつりぽつりと蕾を綻ばせ始めた梅の薫りが、小さな春の訪れを感じさせた。
「梅の花 一輪咲いても 梅はうめー」
「ぶっ。ちょっと総司、いきなり笑わせるの止めてよね!」
市中の見廻りの途中、塀の向こうに見えた白梅に思い出した歌を口にした途端、隣にいた平助が吹き出した。
「別に笑わせようなんて思ってませんよ。確かに梅は一輪でも存在感のある薫りがしますし、その通りだなぁと思ったまでです」
「いや、確かにその通りなんだけどその通り過ぎるというか可愛過ぎるというか……ぶはっ」
まぁ確かに普段あの仏頂面の土方さんが詠んだにしてはとっても素直で可愛らしいですけど。
「捻くれた小難しい歌なんかよりわかりやすくて良いと思います」
そんな大笑いする歌ですかねぇ? あの人の歌。
「そーゆーとこ、総司の感覚ってあの人に毒されてるよね……」
いつも笑いのネタとしてしか話題に上らないことが不思議で首を捻った私に飛んできたのは、呆れを含んだひきつった笑い。
きっと何も考えずに言ったんだろうけど、少しだけ胸がざわざわして、つい口が尖る。
「……別に毒されてる訳じゃ」
「まー総司らしいっちゃ総司らしいんだけどね。てかそれよりこの羽織ってさーやっぱりなんか微妙だよねー」