飼い猫と、番犬。【完結】
巡察も屯所への帰り道を残すのみになり、少しずつ人が少なくなっていく通りを西へと向かっている時だった。
「今日よくくしゃみしてるよね、風邪じゃない?」
不意に出たくしゃみに鼻を啜りっていると平助が顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですよこのくら……っくしゅっ」
言いつつまたくしゃみが漏れて、ぶるりと悪寒が走る。
病は気から。
今日は朝から日もなく冷え込んだから──だと思いたい。
だって仮にも助勤を任されている身で、体調が悪いからなんて言って隊務に穴を開けたくはない。
「えー大丈夫じゃないでしょ。今日はもう帰ったら寝ときなよー」
「大丈夫ですってば。それに今日はこのあと山野さんと突きの練習をする約束があるんですもん」
「そんなの別にまたで良いじゃん」
「駄目ですよ、折角私に教えを乞うてくれているんですから」
山野くんは何の偏見も持たずに私を見てくれる少ない人間の一人だし、京に来てから初めて仲良くなれたと思える人だ。頼ってくれているならしっかりと返したい。
私は女で。
どうあがいても力では男に劣ってしまう。
だからこそ強さを認めてくれているというのが心底嬉しかった。
それでなくても私の稽古は何故か皆嫌がるんですもん。やる気のある人とやれるなら私は幾らでも頑張りますよっ。
むんっ、と平助の言葉に耳を塞いで意気込んでいると、側の長屋の一角から何やら盛大な音が響いてきた。