飼い猫と、番犬。【完結】
「食い逃げやっ!」
直後、中から店主とおぼしき野太い声が届いた。
反射的に顔を向けた先で小豆色の暖簾を揺らして出てきた男は、私達を見るや否や慌てて砂を蹴散らし反対方向へと駆けていく。
間違いなくあれが犯人だ。
「追いますよ!」
「勿論っ!」
ほぼ同時に走り出した平助の声は嬉々としていて、さっきまでののんびりとした様子はすっかりなりを潜めてる。
まるで獲物を見つけた野生の獣だ。
魁先生と呼ばれるのもわかりますね。
その反応に思わず苦笑いしたのも一瞬。きっと私も似たような顔をしているから。
キュッと上がった口角に目を細め、今にも泣き出しそうな空を背負う男の背を追いかけた。
どこか他所から流れてきたのだろう。あまり町に詳しくないのか、その小汚ない身なりの男は少し追いかけ回せばすぐに捕らえることが出来た。
だが、男を奉行所に引き渡して再び屯所へと戻ろうとした時には、既に降り出した冷たい雨が辺りに茶色いぬかるみを作っていた。
仕方なく雨に打たれ、今度こそ何事もなく屯所に帰りつく。
本来なら何よりもまず土方さんに隊務の報告に行くのだけれど、如何せん今日は全身が搾れる程にずぶ濡れだ。
で──
「っ!? ちょ! 総司っ!!」