飼い猫と、番犬。【完結】
流石にそのままで部屋に入るには気が引けて、その前の縁側で濡れに濡れた羽織を脱ぎ捨て、袴の紐をほどいたところで平助が慌てて手を振った。
「そ、それは駄目でしょ駄目だって!」
「え、長着着てるし平気でしょう?」
「そ、そりゃまぁ……そーだけどさぁ」
でもなぁとぶつぶつ言ってる平助だけど、こうして長く此処にいる方がよっぽど不味いし寒い。
「ほら、早く」
一人さっさと袴を脱いで水気を絞ると、慌てた様子で目を丸くする平助をそう促して、先に部屋に入ることにした。
まだ日暮れ前なのに、分厚い雲のお陰で中は薄暗く空気も冷たい。
そんな部屋の一角にある衝立の裏をいつも私の着替える場として使っている。
羽織と袴さえ脱いでしまえばもう水が滴ることはなかった。
湿った帯を解いて、袷、襦袢と衝立に引っ掛ける。
袷が残りの水分を吸ってくれたらしく、中はそのままでもいけそうで助かった。
軽く体を拭き、新しく出した着物に袖を通していく間に、衝立の向こうでは同じく平助が着替える気配がした。
髪を拭きあげながら、雨の音と布が擦れる音を聞いて暫く。
今度はカチカチと火を起こす音が聞こえた。
「寒いでしょ? こっちおいでよ」