飼い猫と、番犬。【完結】
その言葉に衝立から顔を出すと、どうやら火が入れられたらしい火鉢の前に平助が座ってる。
「ほら、拭いてあげるから」
柔らかに微笑みながらトントンと畳を叩く平助は、やっぱり気遣いの出来る男だと思う。
モテそうなのに……恋仲とか欲しくないんでしょうかねぇ?
よく考えると浮いた話を聞いたことがない。
ちょっと心配だ。
「……っ、くしゅんっ」
「大丈夫?」
「ん、ちょっと寒くて」
腰掛けて暫く、また何度かくしゃみが漏れた。
濡れた体はすっかり冷えて、手指の先は赤くかじかんでいる。
頭の奥が少しぼーっとする。
もう誤魔化しようがない。
間違いなく、風邪だ。
「寝ときなよ、土方さんには俺一人で報告しとくからさ」
ふわりと肩に掛けられた綿入りが起こした微かな風でさえ、全身に鳥肌がたつ。
昔からよく知る感覚。
どうやら熱が上がってきたらしい。
……でも。
「報告くらいなら私も」
そこまでが一応隊務なのだし。
最後の最後で投げ出すのはやっぱり少し嫌だ。
ただそう思っただけだったのに、
「……土方さん、だから?」
いつもより低い、そんな言葉が返ってきた。