飼い猫と、番犬。【完結】
「おう! 楽しけりゃ良し! もう仲間なんだからよ」
けれどあっけらかんと豪快に笑う彼には思わず気が抜けるから不思議だ。
「貴方昔からそうですよね……」
「お前が勝ちにこだわり過ぎんだよ。折角来た新人虐めんじゃねぇぞ?」
お前の稽古が厳し過ぎて隊士が居着かねぇんだよ、とおでこを小突かれると何となくむず痒くなる。
日野からの昔馴染みであるとはいえ、年の離れた彼は頼れる兄のようなものだった。
まぁ未だに子供扱いしてくるのは何もこの人に限ったことではないけれど。
「……軟弱者はいりません」
「今はそんな贅沢言ってらんねぇっつーの」
……確かに人手不足ではありますが。
それでもさっきの黒いのの嫌味な笑みが頭を掠めると、やはりこめかみが引きつってしまう。
が、確かに左之さんの言い分も正しい訳で。
膨れた頬を自覚しながらも私は仕方なくぼそりと呟くことにした。
「……善処します」
あいつ以後。
──と、思っていたのに。
翌朝の稽古であの黒いのに叩き付けた手合わせという名の果たし状は、思わぬ結果に終わった。
竹刀で良いと言うからまた舐められたものだと思っていたら、どうやらあの男は剣術にも通じていたらしい。
へらへら笑いながらもことごとく私の竹刀を受け止めた黒いのは、入隊二日目にして一躍他の隊士から一目置かれることになってしまった。
しかも、
「いやぁー朝からええ運動さしてもらいましたわ、おおきに」
なんて無駄に爽やかに微笑んでくるからこれまた無性に腹がたつ。
……んの垂れ目チビっ!
「機嫌悪ぃな総司」