飼い猫と、番犬。【完結】
「違います」
これは本当だ、嘘じゃない。
会えば、つい目で追ってしまうことはある。自分に掛けられた声じゃないのに無意識にあの人の声を拾ってしまう私もいる。
でも、だからじゃない。
「私は、無理を言ってついてきたから……極力迷惑は掛けたくないんです」
女だという事実はいつまでもつきまとう。それでなくても私は昔からあまり体の強い方ではない。
女は弱い、女はすぐ泣く、女は男には敵わない──そんな言葉は何度も聞いた。
女だから、女のくせに。
馬鹿な男はすぐに女を下に見る。
だから私は、ついてきた以上何事も男以上であると決めたんだ。
土方さんは……皆はそんなこと言わないってわかっていても、甘えてなんていられない。
いつか、連れてこなければ良かったと思われてしまうのが……怖いから。
振り返ることも出来ず、肩に掛かった綿入りをぎゅっと握り締めた。
言ってしまえば、優しい平助はそんなことないと言ってくれるんだろう。
でも、そんな慰めをもらったって、しょうがないんですよ。
「……うん、ごめん」
「別に謝る必要は」
弱々しい声に漸く後ろを振り返ると、平助は眉を下げて笑んでいて。
その顔は、どこか悲しそうだった。