飼い猫と、番犬。【完結】
私達のことを知ってる皆は、京に上ってからは避けるようにその話を口にしなくなった。
平助にこんな顔をさせる程に気を使わせているのかと思うと、やっぱり胸が痛む。
「平……」
「熱、あるんでしょ? ほら、ちょっと熱い」
私の声を遮るように声をあげた平助の手が、額に触れる。
その掌に遮られて、平助の顔が見えなくなった。
意外に大きな手をしていることに、今更ながらにふと気が付いた。
「無理したら長引いちゃうよ? 今日は俺に任せて、早く治してよ」
再び映ったその顔はさっきまでと変わらない笑顔だったけど、それもまた平助の優しさなんだと思うと顔が歪んでしまう。
「大丈夫だってば」
けれど呆れた苦笑いになった平助に頭をぽんと叩かれて、私は漸く小さく頷くことが出来た。
我ながら情けない。
「今日は俺も一くんも別んとこで寝るから総司はゆっくり休んで。あとでお粥でももらってくるからもう寝てて良いよ」
正直、体調が悪い時は一人でゆっくりしたいから、その心遣いは嬉しい。
「じゃあまたあとでね」
布団まで敷いてくれた平助に押し込まれるようにして寝転んだ私は、障子が完全に閉じたのを見届けたあと、そっと息を吐いた。
……駄目ですね。
色んな想いが渦巻いて、段々と申し訳なさが押し寄せてくる。
役に立ちたい。
気持ちだけが先走って空回りしてる、それは自分でも理解出来た。
雨の音に更に気が滅入りそうだ。
「……はぁ」
それでも体は休息を欲していたらしい。
何度か寝返りをうっているうちに、私の意識はゆらゆらと暗い闇に落ちていった。