飼い猫と、番犬。【完結】
物音一つしない部屋の前。
眠っているのはその気配でわかる。無駄に声を掛けることもないだろうと、俺は黙って障子を滑らせた。
幹部と言っても所詮は間借りの俺達だ。然程広くもない部屋には畳まれたままの布団と幾つかの行李が少々場所を取っている以外には、火鉢と衝立、それと文机が置かれている程度。
他の部屋より小綺麗に片付いているのは、一応女子である沖田の存在があるからなのか。
そんな鏡台すらない簡素な部屋の隅に、微かな寝息をたてて眠るその姿があった。
「……」
幹部の中でも割りと気配に敏(サト)い沖田だが、流石に今日は気付く様子もない。
仕方なく持ってきた盆を静かに脇に置くと、無防備に眠りこけるその顔を見下ろしてみる。
下ろされた髪。長い睫毛。ふっくらとした形の良い唇。
中性的……というより寧ろ女顔であるそいつの寝顔は、どこからどう見ても女子にしか見えない。
こらなんも知らん隊士らが見たらあっちの道に目覚めてもうたて勘違いしてまいそうやなぁ。
なんて余計なことを考えつつ、指の背でその額に触れる。
……微熱やな。呼吸も落ち着いとるし、汗もかいとる。まぁそない大したことはあらへんやろ。
口許、首筋と手を動かし、最低限の確認をとってゆく。
それでも沖田は微かに身動ぐだけで。
……つまらん。