飼い猫と、番犬。【完結】

堂々と薬師(クスシ)代わりにやってきた俺にどんな反応をするのかが見たかったのに、これでは面白くもなんともない。


ちょっとからかってやろー思たのになぁ。


副長の命だと言って藤堂くんからにこやかに粥を引ったくってきた甲斐もない。


間ぁの悪い奴め。


そっと頬に指の背を滑らせる。


流石に伏して寝ている女子を起こしてまで虐める趣味はない。


わかる所に置いておけばそのうち勝手に飲むだろうと、盆に薬包を置き、立ち上がろうと畳みに手をついた、のだが。



「……なんやねん」



動く気配を感じとったのか、するりと布団から出てきた手が俺の着物を掴んだ。


一瞬、起きたのかと思いじっと眺めてみたが、微かに顔を動かしたそいつは再びぴたりと動かない。


暢気な顔で寝こけたまま。


すぐに力の抜けた手はぽとりと落ちたが、何となく動けなくなってその場に固まる。


心なしかその顔が笑っているようにも見えたから。



……あん人とでも間違うてるんやろか。


だとすれば気に入らない。


自ら手放した癖に、未だに深いところで想い合い、引き摺り続ける二人。


思わず苛立ってしまう理由は、わかってる──






「……」



つ、と無表情に目を細めた俺は浮かしかけた腰を下ろし、視界の隅に映った盆へと手を伸ばした。
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