飼い猫と、番犬。【完結】
「ーーっ!何をっ!!」
今度は噛み付かれないように、直ぐ様身を離して顔を上げる。
直後飛び起きたそいつは僅かに口から零れた水を手の甲で拭いながら睨み付けてきた。
何も出さないところを見ると、どうやら薬はちゃんと飲み込んだようだ。
「……薬」
「はっ?」
「薬飲ましたっただけやん。ちなみにや、俺は土方副長に言われたさかい来たんやで?」
副長の名を出せば案の定沖田は一瞬瞠目して押し黙る。
……そうや、揺れたらええ。
自分の元恋仲が藤堂くんでも斎藤くんでもない俺を寄越したことを、深読みすれば良い。
揺れて、迷って。
さっさと忘れてしまえば楽になれるのだから。
そんな俺の思惑のなか、沖田は暫し逡巡するように視線をさ迷わせたあと、きゅっと顎を引いて睨み上げてきた。
「そんなの、そこらに置いとけば良かったでしょう?何もこんな」
「早よ治したろゆう俺の好意や。自分、体調悪かったん今日だけやないやろ」
一昨日くらいからだろうか、何となくだるそうにしていたのは知っていた。
それはふとした一瞬のことで目立つものではなかったから、他に気づいている人間はいないかもしれない。
本人も意外だったのか、はっとした様子で目を丸くする。
その隙を狙って、俺は柔らかく微笑みかけた。
「気張るんはええけどや、無理はしたあかん。他の人ら心配さすだけやで?」