飼い猫と、番犬。【完結】
怒りのままにガガガと勢いよく質素な朝餉を腹に掻き込んでいると、隣にいた土方さんがニヤリと片口をあげて話しかけてきた。
理由なんてわかってるでしょうに……本当この人は意地悪ですよね。
幸い此処にいるのは日野からの仲間だけ。
だから私も誰に気兼ねすることなくむくれ放題だ。
「……放っといてください」
「あいつは天真正伝香取神道流を叩き込まれているらしいぞ、意外と使えるな」
「てん……?」
「所謂香取流だ、聞いたことねぇか?」
「……ないです」
どうせ私は世間知らずですよーだっ。
と言うか道場破りみたいなことばっかりしてた貴方と一緒にしないで欲しいです。
「ま、便利な奴ってことだ。あんま虐めんじゃねぇぞ」
詳しく説明するのも面倒になったんだろう、眉を寄せた私に簡単に話を纏めた土方さんは、最後にしっかりと釘を刺して、また何事もなかったように味噌汁を啜る。
例え長い付き合いでなくたって流石にこれはわかる筈だ。
間違いなく土方さんはあの男を気に入ってる。
昨日あのあと何を話したかは知りませんが、少なくともあの男の力量は認めたということ。
そんなこと今まで一度たりともなかったのに。
入って早々、しかもこの人に気に入られたということが、また無性に私の心にざわざわと細かな波をたてた。
益々眉間の皺が深くなり、箸を握る手にも力が入る。
確かにあの人は強い……それは認めます。
けれど私が長年かけて築いたこの場所に、何の苦もなく軽々と足を踏み入れようとしていることがどうしても私を苛立たせる。
それが幼稚な嫉妬だとわかっていても、私はあの胡散臭い男を素直に認められる程大人ではなかった。