飼い猫と、番犬。【完結】



『土方副長に言われて』



あいつはそう言った。


前、首に歯形をつけられた時も何も言ってはこなかった。


私達に変な噂が流れているのも知っている筈なのに、この人は何も聞いてこないし平然としてる。


確かに土方さんは特別扱いはしないと言った。私だってそれで納得した。理解はしてる。


してる……けど、たまに心がついていかなくなる。


夜、たまに帰りが遅い理由を知っているから。


皆といれるのは嬉しい。
初めはただそれだけを望んでついてきた筈なのに、苦しいのは私だけなのかと、そんな醜い感情まで湧き上がってしまう。


そんなにも簡単に忘れられる存在だったのか、と。


ずっと見ないようにしていたのに、それは薄まるどころか今になって益々モヤモヤしてしまう。


それもこれも全て──



あいつが色々引っ掻き回すからですよ……。



山崎の所為だ。






「あーもうっ!」


本当、余計なことを。


ついあの憎たらしい笑みと一緒に生々しい感触まで思いだしてしまった私は、思わず全身が痒くなって声まで漏れた。


気付いた時には隣にいる土方さんが妙な顔でこっちを見つめてる。


そりゃそうです。



「どうした?」

「……ちょっとヤなこと思い出しただけですお気になさらず」


あまり見られたくなくて、そう早口で言い切り顔を背けて歩き出す。


なのに、立ち止まったままの土方さんがまた、声を掛けてきた。
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