不思議の国の女王様
 
「ところで、キミはなんて言うんだい?」


「あ、俺か? 俺は……」



 言葉を続けようとして、固まった。


 思わず口元を押さえてしまう。



「どうした?」



 何て言ったらいいのかわからない。


 それは、言葉が見つからないのではなく……。



「っと! おっかない顔で立ち上がって、どうした? 下痢か?」



 だってまさか……そんなことがあるはずがないのだ。



「……わりぃ。忘れた」


「忘れ物? なら仕方ないな。じゃあ取りに行――――って、おーい!」


 取ってこれるものなら、どんなによかったか。



「失礼いたします、帽子屋様――」


「っ!」



 たまらず駆け出した矢先、誰かとぶつかる。


 謝る、なんて余裕は、正直なかった。



 ……こんなことがあるはず、ないだろ。
 
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