不思議の国の女王様
*誇り高き主君:ハートの女王
連れて行かれた先は、のけ反っても見渡しきれない豪奢な城。
(てゆーか、顔パスでオッケーもらったぞ、こいつ)
振り返れば、高くそびえる堅固な鉄門。
いとも簡単に開けさせた眼帯の男は、確かな人脈なのだろう。
迷路のような城内を、どう歩いたのかはわからない。
最奥だと思われるひっそりとした部屋の前で、ジャックが立ち止まった。
「失礼いたします。アリスをお連れしました、女王陛下」
ノック、声かけ、ドアの開け方。
どのひとつを取っても、洗練された仕草。
ジャックに誘導され、ついに足を踏み入れる。
とたん鼻をくすぐったのは、バラの香り。
赤系の色調でまとめられた部屋は、驚くほどに広かった。
帽子屋が一軒おさまりそうな巨大空間に、本棚と、机と、窓際のバラが数本のみ。
「よく来たな、アリスよ」
澄んだ声に、伏せがちの視線を上げる。