不思議の国の女王様
 
「チェシャネコに言われなかったか。この世界は、歪んでいると」



 心を見透かされたようで、ギクリとした。



「『本』には書き手の心が表れる。物語を綴った者の心が歪んでいた。ゆえに、この世界も歪んでしまったのだ。

 主人公は存在しない。その代わり、異世界から多くの人物を引き寄せる。何かを失くした者たち。失ったものを探しにこの世界にやって来て、自身の物語を綴る。

 彼らの存在があって初めて、この『本』は物語として成立する。お前がこうしてこの世界に来たのもおかしいことではない。そしてわらわの役目は、お前に協力すること」


「……え」


「歪んでいるこの世界は、お前の知っている『不思議の国』ほど平和ではない。至るところに闇は潜んでいる。

 お前を守り、もとの世界へ無事送り帰すことがわらわの仕事であり、使命なのだ」



 耳を疑ってしまった。


 今、送り帰すと言ったか?
 
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