不思議の国の女王様

*不吉の暗黒蝶

 
「では、頼んだ」



 その言葉を聞き届けたかのように、飛び立つ真紅の蝶々。



 ひらり、ひらり。



 淡い光の鱗粉をちりばめながら、青空の向こうへ溶け込んでしまう。


 絵画のようだ、とジャックはいつも思う。



「伝書蝶をお使いになるとは、お珍しいですね」


「あやつは、あの蝶からしかわらわの頼みを聞かんからな」


「情熱の赤はシェリル様の象徴ですから、安心してお受け取りになられるのでしょう」


「宮城で暮らすわらわより警戒心が強いとは、面倒この上ない」



 羊皮紙の束とにらみ合いを続ける女王の手元に、それとなくティーカップが置かれる。


 シッキムのセカンドフラッシュだ。


 甘やかな香りとお目にかかる場面は、決まっている。
 
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