不思議の国の女王様
「阿呆ゆえ、事の重大さを理解できんのだ。だからこの城をフラフラほっつき歩ける」
「もしそうだとするなら……彼はすでにこの世にありませんね」
――ピタリ、と止まる羽根ペン。
ふれた先から、じわりとインクが羊皮紙に浸みる。
「どういうことだ、それは。……まさか」
ジャックは頷いた。
とたん、女王の顔色がにわかに赤味を失う。
机を引っぱたき、立ち上がるのも、すぐのことだった。
「なぜ言わぬ! 少しでも変化があれば報告するようにとあれほど!」
「申し訳ありません。たった今、仕入れた情報ですので」
ひらひらと、ジャックの背後から蝶々が姿を現した。
暗黒色の蝶が、不吉と共にやって来たのだ。