不思議の国の女王様
「突然の頼みを聞いてもらってすまない。助かった」
『あなたの頼みならお安い用よ』
「もう帰るのか」
『ええ、もうじき夜だしね。私は幽霊じゃないから、夜道で襲われそうで怖くって』
「そうか。ならば気をつけて」
『ありがとう。アリス、今日はお話できて嬉しかったわ。また今度会いましょう』
「ん? ああ――」
「馬鹿を言え。こやつはすぐにでも元の世界に帰る。次はないわ」
……人の言葉盗るなっつの。
女王、次いで絶賛頬を引きつらせ中のアリスを見やり、ファントムが口端を下げた。
『寂しいわね。なら、残り少ない時間、仲良くね』
ひらり、と黒のローブがはためき、木枠に縁取られた茜へ溶け込んでいった。
後に残るは口元に笑みをたたえたファントムの残像と、沈黙。
――鼻で笑うかと思った。
女王と目が合う。
おそらく、考えていることは同じ。
んなこと、できるわけねぇだろうがッ!