紅いホワイトデー
「……あのね、失恋、しちゃった」


苦笑いしながら言った言葉とは裏腹にどこか前向きな雰囲気で、僕は驚いた。


「えっ……」


「告白しようと思ってたんだけどさ、先……越されちゃった」


「……そっか」


「ごめんね。こんな話、困るよね」


困るよ。すごく、困る。君が泣くほど好きだったそいつに嫉妬して狂いそうになる。


そう思いながらも首を横に振ると、彼女はホッとした表情をした。


「ありがと。なんでかなぁ……伊吹くんといるとすごく落ち着くし、話したくなっちゃう」


不思議だね、と言う彼女の笑顔に僕の心は浄化されたような気分になる。


僕も、不思議だよ。君の笑顔はいつだって、僕の心を綺麗にしてくれる。


「一緒に、帰らない?」


「え?」


「あ、あの、ほら……」


勇気をだして一緒に帰ろうと誘ったけど、それを聞き返されて恥ずかしくなり、しどろもどろになる。


そんな僕の様子が面白かったのか、フフッと小さく笑う彼女。


「うそ。聞こえてた。帰ろう」


『伊吹くん』。


甘く優しい声で僕の名前を呼ぶ。


いつだっただろうか。


初めて、君が僕の名前を呼んでくれた日は。


僕が、君に恋をした日は。















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