紅いホワイトデー
その日、僕はどことなく身体が怠くて、酷い頭痛がしていたのを無理して学校に来ていた。


『ねぇ……君、大丈夫?』


授業が終わって、机に伏せていると、頭上から声が降ってきた。


まさか自分が女の子に声を掛けられるなんて露にも思っていなくて、最初は気づかなかった。


『おーい?君だよ?』


『……え?』


屈まれて、目の前で手を振られてやっと気付いて顔を上げる。


『やっぱり顔色悪いよ。保健室、行こう』


『で、でも……』


授業があるし……。


そう断ろうとしても、時すでに遅し。


いつの間にか、僕は彼女に引っ張られて教室から出ていた。


『あ……ちょっと』


『体調悪い時は無理しない!』


無理したって良い事ないよ、と無邪気に笑うその姿がとても綺麗で。


身体の怠さも、頭痛も少しだけ良くなったような気がした。


『しつれーしまーす』


『……失礼します』


彼女に続いて保健室に入ると、何故か誰もいない。保険医の先生までも。


『……あれ?誰もいない?』


『じ、じゃぁ、教室に……』


これ幸いに教室に戻ろうとすると、右腕がズンッと重くなった。


『だ、ダメだって!病人でしょ、寝よ!』


『なっ……!?』


見れば、彼女は僕の右腕にしがみついていた。女の子とこんなに密着するのは初めてで、照れくさくて、動揺する。


『ほらっ!寝る!』


『かっ……勝手に寝るのはいかがなものかと……』


『ごちゃごちゃ言わない!ほら!』


最後は彼女に気圧されて、渋々ベットの中に入り、身体を横にした。


『そう言えば、名前知らないな。私、松川志乃。君は?』


『仲野伊吹です』


『伊吹くん、かぁ……よろしくね!』


よろしく、と差し出された小さな右手となんの汚れも知らないような、純白の無邪気な笑顔。


名前を呼ばれただけなのに、心臓が大きく跳ね上がった。


僕は、彼女の笑顔に恋をした。












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