好きを百万回。
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一心不乱に針を進める。

もう少しで完成する。

針を持っているときは会社であったイヤなことも忘れられる。

「こまりちゃん、相変わらず綺麗なエコーイングやねえ」

先生が褒めてくれる。

「ありがとうございます。稜子先生が熱心に教えてくれはるおかげです」

「でもこの綺麗な縫い目はこまりちゃんの性格よ。細かく几帳面で」

ここでハワイアンキルトを習い始めてもう5年目になる。

毎日身も心もクタクタになっていた社会人1年目、駅から自宅に帰る道すがら偶然見つけた小さな看板。

『ハワイアンキルト教室 東田』

もともと手芸は嫌いじゃなかったからかもしれない。気が付いたらインターフォンを押していた。


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