好きを百万回。
拾いあげて、手のひらにのせる。
「ごめん、それオレの」
野波さんがワイシャツの袖口を指さす。
「お時間、大丈夫だったらつけますよ?」
「お願い出来る?」
申し訳なさそうに彼が言う。
差し出された左手は大きくて、長い指に短く切りそろえられた爪。手首には重そうなメタリックの時計。
針で肌を傷つけないように、ちょっとだけ緊張して縫う。
「終わりました」
顔を上げると、思いの外近くに彼の顔があってビックリした。
「ありがとう、助かった」
彼が柔らかに微笑む。
「いえ、このくらい大したことないです」