好きを百万回。
16
気が付けば、季節は桜がハラハラと散り始める頃になっていた。
8月にはアメリカに行くことを噂で聞いた。
野波さんは頑張っている。
ちゃんと自分の目標に向かって進んでいる。
良かった。
お母さんは満開の桜を見てから、
「そろそろ限界やわ」
と言いホスピスに入った。
わたしは仕事帰りに毎日お母さんのところに寄り、週末は朝から晩までお母さんのベッドの横でキルトをして過ごしている。
「そんな毎日来んでもええのよ?折角週末やのに野波くんとデートしてきたら?」
「朔也さんも留学準備で忙しいのよ。毎日電話してるから大丈夫」
お母さんには野波さんと別れたことを言えずにいた。
わたしのことを心残りにさせたくないから。
虚しい嘘だと分かっていてもやめられなかった。
キルトを傍らに置いて椅子から立ち上がる。