好きを百万回。


後頭部を何度か撫でられて、温もりが離れた。


違うーーー!


「元気で」


野波さんがくるりと向きを変え、書庫を出て行く。


「幸せだった!」


わたしの声に野波さんが驚いて振り向く。


「幸せだったから!」


野波さんが微笑む。



「気を付けて、頑張ってきてください。ご成功をお祈りしています」


頭を下げたわたしにはそれ以上の野波さんの表情は分からなかった。

遠くなる靴音が聞こえなくなるまでそのままでいた。


これで最後。
もうこれで諦められる。

ちゃんと言葉がかけられて嬉しかった。


前と同じように変わらない穏やかな口調が嬉しかった。


もう充分。



さよなら、野波さんーーーーーー。




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