好きを百万回。
「ごめん」
その声で、抱きとめられた胸の感触で、誰だか分かってしまう。
わたしの背中をポンポンと軽く叩き、忙しそうに野波さんが営業室から出て行った。
「なんか名残り惜しそうですね」
一瞬、ぼんやりしていたわたしに志田くんが声をかける。
「そう?わたしだってイケメンには普通に興味あるけど」
「野波さんはダメですよ」
志田くんがチェック未済の書類をわたしに手渡しながら言った。
「・・・・・?そんな身の程知らずに見える?」
「こないだ男だけで飲みに行ったときに野波さんが言うてはりました。来年、結婚しはるそうです」
「そう、それは相手の人が羨ましい」
普通を装う。
この後輩は勘が鋭いから。
2年の間にわたしだって動揺を表に出さないくらいのことはできるようになった。