好きを百万回。
8
あれは最初で最後の恋。
きっとこの先誰に出会っても、胸を張って言いきれる。
「佐藤さん、退職の書類書いといてな」
封筒に入った書類を課長から渡された。
「結構ありますね。大変だ」
「大変だろ。面倒だから辞めるの止めちゃいな」
課長が笑う。
「引き止めて貰えるんですか?」
「君を失うのは辛いねえ。人当たりがよくて、業務にも精通してて、しかも取引先でも社内でも嫁に欲しいって声がいっぱいだよ」
「幸せですね〜。一番いいときに辞めるって」
書類を確認しながら明るく返しておく。
「まあ、若いときにしか出来ないこともあるからね。頑張りなさいよ」
「ありがとうございます」
課長との話しを終え、溜まっている伝票と書類のチェックをする。