覚醒者3号
現実として認識せざるを得ない。

俺は再びベンチに座り、女性の話を聞き始めた。

「薬品を投与されたところで、発症しない人間には何の副作用もない…そういう意味では、君は運の悪い人間だったと言える…発症さえしなければ、機関に追われる事もなかったのだから」

女性のその言葉を、俺は複雑な心境で聞く。

「その機関ってのは、人体実験をして、超能力を覚醒させて、一体何をするつもりなんだ?」

「…恐らくは、覚醒した者達を『兵器』として他国に売却する」

女性は無表情でそんな事を言ってのけた。

兵器としての売却。

つまり超能力者を軍事利用しようとしているのだ。

「一口に超能力といっても様々な種類がある。強力なものになると、人間を殺傷できるほどのものも存在する…単身敵地に乗り込み、ボディチェックをパスし、素手で敵陣内部に潜入して、武器一つ持たずに壊滅させる…潜入工作員として、これ程効率的な人材はいない…」

「……」

女性の言葉に、俺は息を呑む。

確かに、こんな恐ろしい『兵器』はない。

超能力者に反応する探知機なんて、この世の中にはないんだから。

飛行機でも、国会議事堂でも、高層ビルでも、どこへでも潜入できる。

テロでもハイジャックでも、やりたい放題という訳だ。

そんな恐ろしい事の片棒を、俺は担がされる可能性があるという事か…!

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