薬指の秘密はふたりきりで
あちらのテーブルでは、社内にいるショートカットの美人探しが始まってる。
営業課の子とか、広報課の子とか、商品開発課の子とか、次々に名前が挙がってる。
どの子も綺麗だと有名で、行動的ではつらつとしてて目立つ子ばかりだ。
私とは、真逆なタイプ。
「彩乃先輩。気にしちゃダメですよ。あんなの、嘘に決まってます。他を蹴落とす、あのお団子頭の策略に決まってますよ!」
紗也香が憤慨した声を出す。その反対に、私は、力のない声が出る。
「そうだね・・・」
そうだといいんだけど、不安になる。
『彼女になる?』って言われてそうなったけれど、考えてみれば、亮介から「好きだ」と言われたことがないのだ。
この5年の間、一度たりとも。
lineだって、いつもそっけないし。
5年前のあの時、泣いてた私が気の毒になって、仕方なく、付き合ってくれてるのかも―――
「あなたたち、バカね。そんなのウソに決まってるでしょう」
壁際の方から、張りのある透き通った声が、総務課のテーブルに向けられた。
受付の、神田さんだ。
硬質な靴音をリズミカルに鳴らして、颯爽と近付いて行く。
「その噂が例え本当であっても、そんなの、奪っちゃえばいいのよ。私は自分を磨いて、何度もアプローチしてるわよ」
「うわぁ、流石神田さん。で、成功したことあるんですか?」
「う・・・それはまだ一度もないけど。でも、そのうちきっと落として見せるわ。そんなショートカットの美人が何よ。誰が相手でも、負けるつもりはないわ」
自信たっぷりに言い放つと、ツンとした澄まし顔で自席に戻って、食べ終わったトレイを片付けに行った。
総務課のテーブルからは、羨望のため息が漏れてる。
「やっと、落ち着いたみたいですね。先輩、ショートカットの美人のこと、直接本人に聞いた方が良いですよ。姉とか妹とか、そんなオチですよ」
「ありがとう」