薬指の秘密はふたりきりで
時間は経って定時になり。
ぱぱっと仕事を片付けた私は、スーパーに寄ってアパートに帰った。
買ったのは、勿論、ハンバーグの材料とサラダ用の野菜だ。あと、ワインも。
「亮介、飲むかな?」
ワインを冷蔵庫に入れたあと、早速料理に取り掛かった。
先ずは野菜サラダを作ってラップして冷やして、次はハンバーグ用の玉ねぎを刻み始める。
亮介の好みどおりに、みじん切りを細かくしてると、ツンと目にしみて涙が出てきた。
こんな風に単純作業をしてると、次第に、社員食堂での出来事が蘇ってくる。
思い出したくないって思うと、ますます鮮明になる。
ショートカット美人のこと、やっぱり聞いた方が良いのだろうか。
でも、もしも“会ったよ”なんて、言われたらどうしよう。
しかも“前から気になってる人から誘われたんだ”なんて、言われたらどうする?
それで、それで――――
ある可能性が頭に浮かんで、玉ねぎを刻む手がぴたっと止まる。
それで、今日ここに来る理由が“別れ話”だったら――――
“他に好きな人が出来た”
それは噂のショートカット美人のことで、私と違って亮介にお似合いの人で、しかも結婚を考えてるから社内でも公にして、私は報告にまわってくる二人をただ見つめて――――
「あ・・やば・・・」
包丁を握る手の甲に、ポトンと、雫が落ちた。
玉ねぎのせいだけじゃない。私が亮介を好きすぎるせいだ。
ただの妄想なのに、こんな情けない顔で亮介に会えない。
久しぶりだから、とびきり上等な笑顔で迎えたいのに、我ながらに想像力が逞しすぎて、ほんと困る。
ダッシュで玉ねぎを刻んで、フライパンで炒めて、平たい皿の上に放置した。
熱々の玉ねぎを冷ますように、私も頭を冷やす必要がある。