薬指の秘密はふたりきりで
亮介は、玄関脇にある二畳程のキッチンをちらっと見たあと、靴を脱ぎ始めた。
「ただいま。あ、ちょっと待って。先に、充電してもいい?」
変わらない優しい笑顔と低めの声。
私の返事を待つように、じっと見つめてくる。
「充電?」
一瞬何のことかわからなくて、首をかしげてると「残りパワーが少ないんだ」と言う。
あ、そっか。
スマホの電池が少ないんだ。
私ったら、物わかりが悪い。
「いいよ。亮介のって、私のと同じ機種だったよね。こっちに充電器あるから、使―――っ」
亮介の腕が目の前を掠めたのが一瞬見えて、あ、と声を出す間もなく、後ろからすっぽりと抱きすくめられていた。
「じゃあ、遠慮なく、充電させてもらうよ」
「・・・え?・・・や、ん、りょうすけ・・・ん」
耳から首の付け根まで、ゆっくりと唇が這っていく。
ぞくぞくするような感覚に身を委ねてると、耳朶をなめられながら囁かれた。
「こっち向いて、顔を見せて」
くるんとひっくり返されて、見上げると、そのまま顎が固定された。
「目が腫れてる。今日、泣いた?」
「あ、玉ねぎがしみたの。それで」
「そう。悪いけど、先に、食べるよ?」
「え?じゃ、用意しなくちゃ―――」
腕の中からすり抜けようとすると、腰がぐっと引かれて、後ろ髪に指が差し入れられて、艶を含んだ瞳が近付いてきた。
反射的に目を閉じると優しく唇が合わせられ、そのまま唇を割って舌が侵入してきて、口中を弄り始める。
「ん・・・ふ・・ん」
口づけは徐々に深くなっていき、頭がぼーっとして何も考えられなくなる。
ふにゃふにゃに蕩けてしまって、亮介に必死にしがみついてると、気付けば、ベッドの上に転がされて身ぐるみ剥がされていた。
そのまま亮介の腕の中で何度も意識を奪われて、結局、ハンバーグを焼いて食べたのは夜の10時くらいになった。
ショートカット美人のことは、結局何も聞けないまま、その日が終わっていた。