薬指の秘密はふたりきりで
どこに行くの?
「あれ?彩乃先輩、今日は肌が艶々ですねー。手の美しさも、いつもより、ぐん!と磨きがかかって見えますよ」
始業5分前、ぎりぎりの時間に来た紗也香は、私を見るなり嬉しそうに言った。
「そう、かな?ありがとう」
金曜に福岡から帰って来た亮介は、土曜日も泊って日曜の夕方に家に帰って行った。
2日連続というか3日連続で、ふにゃふにゃに蕩けさせられた私は、かなり疲れている筈なんだけど。
でも確かに、今朝はメイクの乗りが良かった。
そっか、好きな人に抱かれると、肌がきれいになるってほんとなのかもしれない。
亮介は、口コミスキンマスクなんかよりも、ずーっと、効果が上みたい?
「週末はらぶらぶで過ごしたんですよね?例のショートカット美人なんて、先輩に比べればへでも無いですよ。自信もってください!」
紗也香はグッと親指を立てて、とびきりに可愛い笑顔を見せてくれる。
ショートカット美人の正体はわかってないままだし、亮介がBarに行った事も本当なのか確かめてない。
だって、そんなことどうでもよくなるくらいに、亮介は優しかったんだもの。
聞く暇がなかった、って言うのが正しいけれど。
“別れ話”なんて、ちょっぴりでも考えた自分が恥ずかしくなる。
けれど、相変わらず“好き”という言葉は聞けないまま。
いつか、言ってくれるのかな――――
パソコンを立ち上げてメールチェックをしてると、手招き付きで、課長からお呼びがかかった。
「佐倉君、ちょっと」
「はい。何でしょうか」
「悪いけど、この書類をA社に届けて欲しいんだ。期限が今日までなんだが、締め業務で書類作成がすっかり遅くなってしまってね。FAXで済ませる訳にはいかないもので、行って来てくれると助かるんだが――――」