薬指の秘密はふたりきりで
忙しなく動かしていた手を止めてため息ついてると、紗也香が話しかけてきた。
「先輩、どうかしました?それ、lineですよね」
「うん、亮介、新しい仕事のリーダーになったんだって。しばらくは残業続きになるみたい」
「うわぁ、あそこは時期とか関係なく忙しいんですねー。いつまでなんですか?」
「わからない」
遠くに行くわけじゃないし、社内で見かけることもあるだろうから、福岡出張よりはまだいいけれど。
でも、いつも最終の詰めに入ると、土日もお昼時間さえもなかったりする。
体を壊さないか、心配になる。
それに今月末には、私の友人である冴美の結婚パーティに呼ばれてて、二人で出席する予定なのだ。
けれど、忙しくなるなら、亮介は出られるのかな。
日が近付いたら、聞いてみないと――――
「彩乃先輩!」
課に戻って仕事をしてると、不意に、後ろから声が掛けられた。
振り返ると、そこには、満面の笑顔の意外な人が立っていた。
「――優花!」
「お久しぶりですー!」
「久しぶり!というか、どうしたの?」
栗色の髪をすっきりまとめて清潔感のある容姿は、入社以来ちっとも変わらない。
彼女、水野優花は私の後輩で、入社したばかりの頃はこの物流管理課にいたのだ。
どうしても企画がやりたいからと希望して、異動していってもう3年くらいになる。
大きな紙袋を持って何だか嬉しそうにしてるのは、“私に会ったから”じゃないよね?
隣には見知らぬ男子社員が照れぎみな表情で立っていて、これって、まさか、もしかして――――!