薬指の秘密はふたりきりで
そして日は経ち。
週末が来て、今日は土曜日。冴美の結婚パーティの日だ。
身支度を整えた私は、足取りも軽く駅に向かっている。
先日のline通り、亮介はちゃんと来てくれる。
定められた締め切りが迫ってるのに、しっかりと仕事調整してくれたのだ。
有言実行はすごいと思うけれど、疲れてないかな?って心配になる。
けれど、久しぶりに会えることと二人で出掛けることが嬉しくて、どうにも心が浮き立ってしまう。
だって内緒の交際だから、外で会うことがほとんどないんだもの。
二人で電車で出かけるなんて、「超」がつくほど久しぶりなのだ。
しかもそれが“冴美の結婚パーティ出席”だなんて、喜びが二重にも三重にもなる。
『じゃ、2両目で』
昨日打ち合わせた通り電車の中を移動していくと、目指す車両の扉前に、亮介が立ってるのが見える。
嬉しすぎて自然に目が潤んでしまう。
「――亮介、おはよう」
「おはよう」
見上げると、清んだ優しい目がふわりと笑ってじっと見つめてくるから、一瞬言葉を失ってしまう。
今日の私、綺麗?
亮介は、私に会えて嬉しい?
いろいろ聞きたいことが頭に浮かぶけれど、言葉になって出て来ない。
「あ・・・いい天気になって良かったね」
「そうだな」
久しぶりに会ったというのに、とても短い会話。
けれど、私は、これだけで胸が一杯になる。
女子社員たちの差し入れのことや、会えなかった寂しさや不満なんかが一気に吹き飛んでしまう。
私って、本当に単純だ。
幸せを噛みしめてると、急に、電車が大きく揺れた。
「きゃっ」
不用意だった私は大きく一歩前に出て、さらに揺れ続けるせいで、うまく体のバランスが取れずに転びそうになってしまう。