薬指の秘密はふたりきりで

みんなが集まったのを確認して背中を見せた冴美が、司会者の合図で思いっ切りブーケを投げた。

山なりに飛ぶブーケを追って、みんなの腕が空で踊る。


「彩乃!」


こっちに向き直ってる冴美の呼び声がして、急いで腕を伸ばした。

青い空に、ピンクと白の薔薇の花が綺麗に映える。

リボンをなびかせながら飛ぶブーケは、まるで狙って来たように、私の手の中にすっぽりと収まった。


「あはは・・・とっちゃった」


拍手を浴びて、司会の人が何か言ってるのが聞こえる。

人生初、注目を浴びた瞬間だ。


・・・次は、私。本当に?


亮介のとこに戻って、瞳で訴えてみる。

けれど表情は変わらなくて、期待してるような反応がない。


「もう帰る?」

「・・・うん」


冴美たちに挨拶をして、係りの案内通りに送迎バスに乗った。

ブーケの花を眺めてると、少しだけ勇気が湧いてくる。

アピール、してみようかな・・・。


「パーティ会場素敵な場所だったね。あそこ最近オープンしたばかりなんだって。それに、冴美綺麗だったな。結婚指輪も特別なデザインなんだって。素敵だよね」


素敵、とか、綺麗、とかの言葉を並べてみる。

さらに、左手の薬指が見えるようにヒラヒラさせて話してみた。

けれど。


「へえ、そうなの」


返ってきたのは、なんとも気の抜けた声。

おまけに、欠伸までしてる。

もしかして、退屈、だったのかな――――


「悪い。少し、かりるよ?」

「え、何?」


亮介がもそもそ動いたと思ったら、肩に重みを感じた。

彼の柔らかな髪が頬に当たって、とてもくすぐったい。けれど、動くことができない。

しばらくすると寝息が聞こえてきた。

平気そうに見えても、やっぱり疲れてるんだ。


それから駅までの約30分間、ブーケをどう保存しようか、そればかりを考えて過ごした。
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