薬指の秘密はふたりきりで
「じゃ私、書庫まで行ってくるね」
「はい。あ、一人で大丈夫ですか?一緒に行きますよ」
「これくらい一人で行けるから平気よ。紗也香はさっきの問い合わせの対応してて。急ぎでしょ?」
「はい。じゃ、すいません、お願いします」
いそいそと調べものを再開する紗也香を心の中で励まして、書庫行ってきまーす!と課内に声をかけてガラガラと台車を押していく。
ファイル整理をして纏めた3ヶ月分の書類は、段ボール二箱と結構な量があってかなり重い。
もっとマメに纏められたら、こんなに大変じゃないんだけど・・・。
書庫は最上階にある。
余程の用事がなければ誰も来ないところで、いつもひっそりと静まり返っている。
窓はあるけれど、ほとんど全部棚で塞がれてて、暗くて空気が冷たい。
換気扇が稼働しているけれど、空気が澱んでて少しかびくさい。
“誰もいないのに奥から物音が聞こえた”とか“幽霊が出る”なんて噂が飛び出るようなところだ。
「相変わらず、怖い・・・」
ぶるっと震えるのを無視して、物流管理課の棚まで移動していく。
定められた住所どおりに各書類を仕舞っていると、かたん、と小さな音がした。
「・・・誰かいるんですか?」
呼び掛けてもしーんと静まってて、私の声だけが響いてる。
「手伝いましょうか?」
様子を見ながら棚の間をゆっくり移動していると、ぽん、と肩を叩かれた。
「きゃああっ」
びっくりしたのと恐怖が一緒になって座りこむと、聞き覚えのある声が上から降ってきた。
「悪い。脅かすつもりはなかった」
「――亮介」
涙目になってる私を立たせてくれながら、亮介はくすくすと笑っている。
「・・・声かけてくれればいいのに、ひどいよ」