薬指の秘密はふたりきりで

会えた嬉しさと恐怖と変な噂とがごっちゃになって、私の心の中はぐちゃぐちゃだ。

気付けば、亮介の胸をバシバシ叩きながら泣きじゃくっていた。


「ごめん、悪かった。そんなにびっくりした?」

「違う・・・違う、の」


叩くのを止めてじっと見つめてると、亮介は私の腕を後ろ手にして、片腕でそっと抱き締めてきた。

もう片方の手は、私の頬にそっと触れている。


「じゃあ、これは、何で泣いてるの?」

「全部・・・全部、亮介のせいなの」


喜びも不安も不満も全部、あなたのせい。

こんな複雑な気持にさせるのは、亮介だけ。

亮介以外はイヤ。


「俺のせい、か」


亮介の切なそうな瞳が近付いてくる。

顎が上向きに固定されて、そのまま、唇を塞がれた。


「ん・・りょうすけ・・ここ・・ん・・・かい、しゃ・・」


誰か来たらと思うと気が気じゃなくて、離れようとするけれど、却って口づけが深くなった。


「しょっぱいな・・・今の仕事が終わるまでは我慢するつもりだったけど。遅くなるけど、今日の夜、珈琲飲ませてくれる?」


亮介の親指が、私の唇の輪郭を撫でる。


我慢、してくれていたの?

亮介も、私に会いたいと思ってくれているの?


「・・・亮介の家がいい」

「平日だけど、いいの?」

「うん」

「かなり待たせるよ?」

「いいの。待つのは、どこでも一緒だもの」


亮介は一瞬考えるそぶりをしたあと、ふわっと笑った。


「じゃあ、たまには、来る?俺の家、覚えてるよね。迷子になったら、電話してくれればいいから」


ポケットから出してくれた鍵を受け取りながら頷くと、亮介は私の右肩に額を乗せて囁いた。


「帰すつもりはないから、覚悟してきて。寝不足になることも。いいね?」

「・・・はい」


仕事に戻っていく背中を見送りながら、右肩をそっと触った。

あんな亮介は初めて見た。

額のあったところが、熱い。

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