薬指の秘密はふたりきりで

定時に仕事を終え一旦家に帰ってお泊りグッズを準備した私は、亮介の家に行く前にスーパーに寄っていた。

亮介は、珈琲飲ませてくれる?とよく言うけれど、私がいつも作るのは普通のインスタントのもの。

以前訪れた時に、亮介の家で珈琲メーカーを見たのを覚えている。

きっと、超がつくほどに珈琲が好きに違いないのだ。

だから、たまには美味しいのをと思って来たけれど・・・。

たくさん種類がありすぎて、どの豆がいいのかさっぱりわからない。

こんなことで電話したら、叱られるかな。

でも・・・。

亮介に電話するのなんて、初めてと言ってもいい。

緊張しながらボタンを押すと、呼び出し音が鳴り始めた。

4回、5回、6回・・・やっぱり忙しいよね。自分で何とか決め―――


『はい。長谷川です』


電話越しの声も耳を擽るように素敵で、一瞬固まってしまう。


『もしもし?』

「あ、あの。私、です!」

『やっぱり迷ったの。今何処?』

「ごめんなさい。違うの。珈琲豆を買おうと思ってスーパーに来てるの。亮介、どれがいいかなって、聞こうと思ったの」

『・・・いつものは?』

「インスタントなの。だからたまにはちゃんと淹れようと思ったの」

『俺は、いつものが、いいな。買うなら、いつも飲んでるのにして。それじゃ。迷子になったら、電話して』


ぷつん。

・・・切れちゃった。

なんてそっけないんだろう。

迷子以外で電話したから、怒らせちゃったかな。


「やっぱり、そうだよね」


亮介は仕事中なのだ。珈琲のことなんてどうでも良すぎる。

私ったら、最悪だ。
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