薬指の秘密はふたりきりで
いつもの特売インスタント珈琲と食材も買って、亮介の家に向かった。
駅を降りてすぐ道が分からなくなり、平謝りしながら電話したら、やっぱりか、とくすっと笑われた。
「おじゃましまーす」
1LDKのオートロック式のお洒落なマンション。
私の住んでる安アパートとは比べ物にならないくらい新しくて豪華な造りだ。
先にキッチンにお邪魔して、冷蔵庫の中に食材を入れた。
エビとアボカドのバジルパスタ。亮介、食べてくれるかな。
鍋とかお玉とかの道具が一通りあることを確認して、リビングへ行くと、本とか雑誌が紐で結ばれて置いてあるほかは、綺麗に片付いていた。
何インチあるのか分からない大きなテレビとオーディオのセット。
二人掛けのソファにテーブル。
妙な飾りとか余分なものが一切なくて、とても亮介らしいすっきりとした部屋だ。
「カレンダーも、ないんだ」
お風呂を沸かして待つのもいいけれど、なんだかやる気満々みたいで、ちょっとためらってしまう。
亮介に宣言されたとおり、する気で来てはいるけれど・・・。
迷った末、沸かしておくことにした。
亮介には、帰ったらすぐにくつろいで欲しいもの。
テレビをなんとなく観ていると、9時半頃、玄関のチャイムがなった。
「ただいま」
「・・・おかえりなさい。あ、お腹空いてる?」
「空いてる。何か作ってくれるの?」
「うん。パスタの材料買ってあるの。すぐに出来るから、先にお風呂入ってて」
用意してきたエプロンを着けて、キッチンに立つ。
亮介の家で夕食を作るなんて、なんだか、本当に奥さんになったみたいで気分が上がる。
鼻歌までしてしまうほど、御機嫌だ。