薬指の秘密はふたりきりで
「飲む?」
差し出されたカップを受け取ると、あたたかくて、ちゃんとお砂糖とミルクが入っている。
いれてくれたんだ。
「・・・亮介、最近、誰かと会ったりしてる?barとか、行ったの?」
勇気を出して聞いてみると、亮介は心底驚いたようで、私の顔をまじまじと見ている。
「ああ、行ったよ。会ってもいる」
「誰?ショートカットの人?」
そう聞くと、亮介は唸りながら頭を掻いた。
「そこまで知ってるのか。それ以上は?」
「何も・・・浮気、したの?彼女だって噂されてるよ」
「そっちか。そんなわけないだろ。あれは、ヘッドハンティングの人だよ。新しい会社が立ち上がるから“行かないか”って誘われてたんだ。悩んだけど、つい先日断ったよ。彼女とはもう会うことはない。心配掛けたな?悪かった」
S駅に行ってたのも、その人に会うためだって教えてくれた。
謎が解けてすっきりする。けれど。
「亮介のこと信じていたけど、すっごく不安だったの。話してくれてありがとう。私ね、もっともっと亮介のことが知りたい。だから、もっと色々話してほしいの」
好きなものとか、苦手なものとか、子供の頃のこととか。
今の亮介が大好きだけれど、それは、今の亮介を形作った過去も含まれてるのだ、知りたいと思う。
亮介の全部が好きだから。
両手で握り締めていたカップが取られて、ぎゅっと抱き締められた。
その夜は、亮介の子供の頃の話を寝物語に、腕の中で眠った。
とても幸せな夜になった。