薬指の秘密はふたりきりで
一人で行ける?
そして、土曜日。
部屋の中で寛いでいると、玄関のチャイムが鳴った。
スコープを覗くと、紙袋を持った髪の長い人が立っている。これは――――!
いそいそとチェーンを外してドアを開けると、思った通り、いい具合に日焼けした冴美が満面の笑みでいた。
「彩乃ー、ただいまー!」
「冴美、お帰りなさい。いつ帰って来たの?」
「先週。よかったあ、家にいて。いきなり来てごめんね。今いい?」
「どうぞどうぞ。入って」
きょろきょろ見回しながら、週末なのに、彼とデートしないの?なんて聞いてくる冴美に、珈琲をいれて出す。
「今の時間、彼もいるかな?なんて、期待してたんだけどなあ」
「まだ忙しいの。今日も仕事なんだ。もうすぐ終わるんだけどね」
亮介が昨夜泊まったことは、内緒。今夜も来てくれることも、同様。冷やかされるのは、苦手だもの。
「そっか。仕事大変なんだね」
「うん」
例の仕事は来週の水曜が締め切りらしく、亮介たちは最後の調整にかかっている。
システム開発のことはよくわからないけれど、大変なお仕事だと思う。
でもこれが出来あがれば、物流管理が楽になるのだそうだ。
「ね、旅行はどうだった?」
「すっごく楽しかった。あっちは海がきれいなの。あったかいし、いいところだったよ。こっちは寒いよね。ほら、これお土産。彼の分もあるの。渡しておいてね」
ほんとは直に渡したかったんだけどなあ、と言いながら包みを二つくれる。
大きいのは私ので、小さいのは亮介のらしい。
「ありがとう」
「あ、それ。すぐに開けて見てねって伝えてね。きっと、すっごく気に入ると思うから」
「うん。わかった。伝えておくね」
その後、冴美はスマホの画像を見せながら、ひとしきり旅のお話をしてくれた。
左利きの冴美がスマホを弄るたびに、薬指の指輪がキラッと光る。
見せてくれる画像はとても色鮮やかで綺麗で、楽しそうな二人がたくさん映ってるけれど、つい、指輪に目がいってしまう。