薬指の秘密はふたりきりで
「冴美はいつから仕事に戻るの?」
「月曜からだよ。受けた仕事が溜まってて、なるべく早くって言われてるの。もう少しゆっくりしたかったんだけどね」
片付けとか新居の環境に慣れるのが大変で、最近ようやく落ち着いてきたのだと言う。
今まで一人だったのが、いきなり二人暮らしになって、お食事のこととか家事とか思っていたよりも大変だとため息をついてる。
気を使うことが多くてペースが狂いがちだそう。それは、悠木さんも同じだと思うけれど。
「これからは、家事と仕事との両立が最大のテーマよ。一人なら少しくらい散らかってても気にしないんだけどね」
「でも。悠木さんは手伝ってくれるんじゃない?優しそうだもの。分担するんでしょ?」
「もちろんよ。それは、しっかり結婚前に決めたわ。あ、そうだ!お土産渡すのもだけど、私、彩乃にお願いがあって来たんだった」
肝心なことを忘れるところだったわと、鞄の中をごそごそしてテーブルの上に出したのは、一枚のパンフレットだった。
それは、あのイングリッシュガーデンの――――
「これ、あそこの会場の?」
「そう。来シーズンに向けて新しいパンフレットを制作されるの。そこに、私のデザインしたジュエリーを使っていただくんだけど、彩乃にモデルになってほしいの」
「ジュエリーって、もしかして結婚指輪?」
「あ、わかってる!左手は避けてもらうから。右手で構わないから、お願いします!今まで撮った彩乃のポスターや冊子をお見せしたら、あちらも“是非お願いします”って仰ってるの」
ぱん!と両手を合わせて頭を下げてくる。
冴美のお願いだから引き受けたいけれど、結婚指輪か――――
「少し考えさせて。返事は、いつまでにすればいい?」
「できれば、来週中」
「わかった。決めたら連絡するね」