薬指の秘密はふたりきりで

最近、亮介の噂が絶えない。

その“相手”は、勿論私のことでも、例のショートカット美人でもない。

今度は髪の長い人らしい。ニューフェイスだ。


『思っていた通りだわ。最近の長谷川さんからは、女の香りがしていたのよ。悔しいけれど、私も潮時かもね』


あの神田さんまで、そう言っているらしい。

それに、今日のお昼、社員食堂で神田さんに言われてしまった。


『佐倉さん、もう覚悟はなさった?』

『何のことですか?』

『前に言ったでしょう。覚悟なさいなって。あなたが想いを寄せている長谷川さんには、女がいるわ。最近、急に、気配を感じるようになったの。今まで全然だったのに。急に、よ?そのうち、幸せ報告がまわってくるかもね。あなたも、不毛な恋はお止めになった方がよろしいわよ』


誘っても靡かないのはいつものことだけれど、受付までパソコンの不具合を見にきたあの日だけは、表情も態度もいつもと違ったそうだ。

受付で磨いた眼力は、結婚間近の男子社員を見極めることができると自慢していた。外れたことが無いと。


“急に女の気配を感じるようになった”なんて――私とは、5年も付き合ってるのに・・・。

相手は私じゃないってこと?

噂のロングヘアーの、ひと・・・?



就寝前、亮介からlineが入った。


『撮影日に用事が出来た。一人で行ける?』

『うん。大丈夫』


沈む心中とは裏腹な可愛いスタンプ付で送る。


・・・用事、か。

一緒に行くって言ってたのにな。

もしかしたら、噂のロングヘアーの子に会うのかもしれない。

やっぱり、他に気になる子が出来たのかも。

神田さんの言う通りになるのかな。


私は――――?


確かめるのが、こわい。
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