薬指の秘密はふたりきりで
わかった?
そして、瞬く間に日は過ぎていき、今日は、撮影の日。
市内のスタジオに来た私は、メイクさんの手によって素敵な花嫁姿に変身している。
ふんわりと柔らかで着心地のいい純白のウェディングドレス。
細かいレース模様が繊細なヴェール。
手だけの撮影なのに?と不思議に思う私に、メイクさんが説明し始めた。
“臨場感を出すため”と“映るのは手だけではない”ので、全部本格的に用意するのだという。
全体から漂う雰囲気を大切にするのだとも。
「・・・これ、私?」
鏡の中にいる私は別人のようで、気恥しくなる。
控え室を覗きに来た冴美は、私を見るなり大きく目を見開いて、パシッと両手を合わせて胸の前で組んだ。
「彩乃、とっても綺麗ー!長谷川さんが見たら、惚れ直すこと間違いないわよ!」
「そう、かな?ありがとう、冴美。いい写真になるように頑張るね」
亮介が見たら、か。
誰もが憧れる純白の豪華なドレス。
こんな形で着ることになるとは思わなかったけれど、彼は、今の私を見たら、どんな顔をするのだろうか。
最近、亮介がとても遠くに感じる。
今、どこで何をしてるのだろう。
誰と、いるのだろう・・・。
控室から出てスタジオに入ると、パルテノン神殿みたいな柱のあるセットの中心に、男性モデルさんが準備万端整えて私を待っていた。
グレーのタキシードが良く似合う割とイケメンの人で、二人撮影が初めての私はやっぱり緊張してしまう。
指が震えないようにしないといけない。
余計なことを考えないで、気を落ち着けなくちゃ。